UNION CROSS

アップルパイ小話1

1533文字

まんとう


 ボルマーレに滞在中の昼下がり。カリンはギルド管轄寮の前を歩いていた。開いた窓から甘い香りがする。厨房の中をのぞくと、アルバーンがアップルパイをオーブンから取り出したところだった。

「美味しそう~! アルるんが作ったの?」

「カリン、いいタイミングだね。ちょうど焼き上がったところなんだ」

 丁寧に網目状にされたパイ生地が、ジャムのお陰でツヤツヤと焼けている。見ているだけで涎が出そう。カリンの視線に、苦笑いしながらアルバーンが言う。

「手を洗った後なら、食べやすい温度になっていると思うよ」

 確かに、今は外から戻ったばかり。カリンは水道を借りに流し台へ向かう。そこで驚きの光景に出くわした。

「お菓子作りの後、こんなに綺麗になっていることある!?」

「そうかな? 焼いている時間で片付けただけだよ」

「あたし、焼いてる様子をずっと見てちゃうから、最後までずっと大惨事なんだよね」

「な、なるほど……」

 そんな他愛無い話をしている間にも、アルバーンが手際よくパイを切り分けていた。一切れを皿にのせる。幾層にもなった生地と、重なるリンゴが最高の断面。

 ただ、カリンには見慣れないものがあった。

「これって、干しブドウ? ナッツも入ってる! それにシナモンの香りがする……!」

「うちのレシピは、その三つが欠かせないんだ」

「そうなんだ~! あたしの家だと、カスタードクリームが絶対入ってるの。アルるん家のレシピ、シナモンで大人っぽい感じ!」

 自分で言っていて、採れたて卵と搾りたての牛乳で作ったあのクリームが恋しくなる。しかし目の前にあるパイも負けないくらい美味しそうだ。

 手を洗い席に座る。両手を合わせたところで、最初に聞かなければいけないことを思い出した。

「今さらだけど、あたしが食べていいの? ロンロンに作ってたとかだよね?」

「え? いや、料理は俺の趣味みたいなものだから……。美味しく食べてくれる人に食べてもらえればいいよ」

「それなら、まっかせて! 幸せそうに食べることには自信があるから!」

 許可をもらい、ありがたく一口目をいただく。口に含むとシナモンの香りが更に香る。いい具合の甘さに煮られたリンゴと、パイ生地の塩味がとても合う。後から甘酸っぱいアプリコットジャムが合流。そこにナッツの食感が加わり、噛むのが楽しくなる。干しブドウの後味がまた甘いものを欲しくさせた。このちょっと渋いのはアロニア好みそうだ。

「すっごく美味しい〜! ナッツが良いね!」

「そこまで喜んでもらえると作りがいあるよ。歯ごたえが面白いよね」

 カリンの向かい側にアルバーンが座る。お茶も用意してくれていたみたいで、気がまわりすぎ! と言いながら受け取った。

「そうそう! うーんこれ、家族にも食べてみてほしいな。アルるん、レシピ教えて〜!」

「うん、せっかくならカリン家のレシピと交換にしてもらおうかな」

「あ、それ良いね〜! 家庭の味交換!」

「家庭の味、そう、かも……?」

「みんなも色々レシピ持ってそうだよね」

 メルるんとか。レグルスはお菓子作るかな? 料理好きな仲間が頭に浮かんだ。家ごとのレシピ、みんなにも聞いてみたい。カリンはそう思いながら、最後の一口をフォークに刺した。